ポリオについて no.1

 

かるがもクリニック 院長 宮原篤

 

1.           ポリオ

 

 ポリオは急性灰白髄炎(きゅうせいかいはくずいえん)とも呼びます。原因はポリオウイルスです。口から入ったウイルスが腸の中で増殖し胃腸炎のような症状になります。ウイルスが脊髄(背骨にある神経の束)の灰白質(運動を司る部位)まで達すると、麻痺が起こります。麻痺の部分は片足が多いですが、他の部位にも出てきます。
 脊髄の上にまで広がれば呼吸麻痺を起こします。昔の流行では「鉄の肺」呼ばれる機械で呼吸を補っていました。
http://www.anesth.hama-med.ac.jp/anedepartment/m-memorial-tetsunohai.asp
 感染してすべての人に麻痺が起こるわけではありません。ポリオウイルスに感染した人の0.1-1%が麻痺を起こすと言われています。子どもに感染者が多かったため、ポリオは小児麻痺とも呼ばれています。
 一度麻痺が軽快することがあります。しかし、数十年たってやがて周りの筋肉も衰えることがあります。これをポストポリオ症候群(PPS)と呼びます。ポリオは一度発症すると長い間患者を苦しめます。

2.ポリオワクチン


 紀元前エジプトの壁画にもポリオ患者と思わしき人が描かれており、ポリオは昔から存在していた病気です。しかし、大きな流行となったのは20世紀に入ってからです。
 医学の進歩と共に、ポリオをワクチンで防ごうという取り組みがアメリカや旧ソ連などで行われてきました。
 できたのが、生きたポリオウイルスを弱らせることで作った生ポリオワクチン(OPV)と、ウイルスを失活させて(殺して)作った不活化ポリオワクチン(IPV)です。それぞれのワクチンの特徴を挙げてみます。

生ポリオワクチン:安い。飲む。3回接種以上必要。麻痺を起こすことがある。便からウイルスが排出される。
不活化ポリオワクチン:高い。注射(他国では混合ワクチン)。麻痺を起こさない。便から排出されない。

 昔、不活化ポリオワクチンで問題になった免疫が低いという問題は、最近はクリアされています。ちなみに、ポリオワクチン開発の歴史には、常に光と影がつきまといます。こちらもご覧ください。

31.ワクチンによるウイルス感染症の根絶(4):ポリオ
http://www.primate.or.jp/rensai/zakki/20110329.htm

3. 生ポリオワクチンの問題点

3−1.「先祖返り」による麻痺(VAPP
 

生ポリオワクチンは、腸の中で増殖します。発病しない弱毒株のウイルスなのですが、増殖するときに「先祖帰り」をして強毒株となるのがあります。強毒株で感染し、一部で麻痺を起こすのです。これを、VAPP
(Vaccine-associated Paralytic Poliomyelitis)
と呼びます。
 日本で生ポリオワクチンをつくっている日本ポリオ研究所の見解では「頻度は200万人〜300万人分の使用で1人程度」です。しかしWHOの見解では、100万人に24人です。日本の年間出生数が100万強ですので、単純計算で毎年24名以上のポリオワクチンによる麻痺患者が出ることになります。実際の報告数でも裏付けできています。
 なお、日本を除いて多くの国々では、不活化ポリオワクチンに移行済み(または移行中)のため、VAPP頻度で新しいデータというのは、日本以外にはこれから出てこないでしょう。

 3−2.生ポリオワクチンを使い続ける限り、ポリオを根絶できない

 何だか禅問答のようですが、ひとつの事例を上げてみます。

 2010年の2月に、9ヶ月の男児がポリオで麻痺になったと報じられました。検査の結果、原因はポリオワクチン由来の株でした。問題は、男児はポリオワクチンを(生も不活化も)接種していなかったことです。

 生ポリオワクチンを接種した後、一ヶ月くらいはおむつを替えるのに気をつけてくださいと言われます。生ポリオワクチンは腸で増殖されて、一ヶ月ほどは便から排出されます。これをワクチン由来ポリオウイルス(Vaccine-derived
poliovirus: VDPV)
といいます。さらに、環境に流れたウイルスを cVDPV (circulating VDPV)と呼びます。

 男児はこのcVDPV で麻痺を起こした可能性があるのです。また、昭和50-52年生まれなどでポリオウイルスに免疫がない(少ない)人達の場合「子どものおむつを替えたら麻痺になった」というのはVDPVによるものです。

 

ポリオウイルスに感染して麻痺する可能性は、0.1%-1%と言われています。逆に言えば一人麻痺がいると100-1000人はポリオ感染者がいると考えられます。つまり、VDPVが環境に流れてしてポリオ感染が100-1000人程度の規模で発生(アウトブレイク)していたと考えてもおかしくありません。


  生ポリオワクチンを飲んで先祖返りして強毒化したポリオウイルスは、飲んだ子どもたちのみならず、周りの人達にも感染する可能性があり、そのワクチンが環境に流れることもあるのです。海外でもVDPVによるポリオ流行が報告されています。「生ポリオワクチンを使い続ける限り、ポリオを根絶できない」とはこういう意味です。

4.日本で不活化ポリオワクチンに移行すべき時期はもう過ぎている
 

安くて投与が簡単な生ポリオワクチンは、ポリオ蔓延地域では有効です。日本でも戦後ポリオが流行したときに、ソ連やカナダから生ポリオワクチンを緊急輸入したという歴史があります。日本人は生ポリオワクチンの恩恵を受けてきました。
 しかし、流行が抑えられた多くの国々では、不活化ポリオワクチンへ移行または移行中です。本来日本でも速やかに移行するべきなのです。次号でも書きますが、早ければ来年度ですがおそらくは再来年以降になるようです。

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