冬、子ども達に多い「RSウイルス感染」とは?

スマイルこどもクリニック副院長 小児科医:武井智昭

 

 

1.    RSウイルスとは…そもそも、どのような感染症なのか?

 

RSウイルスの「RS」とは、「Respiratory Syncytial=呼吸器の合胞体)」の略です。一般的にウイルスに感染すると、その細胞が腫れて1つになる現象から、そのように名前が付けられました。また、RSウイルスは麻疹(はしか)ウイルスと同じ「パラミクソウイルス科」に属し、感染により細気管支炎・肺炎などの呼吸器感染症を起こします。

 

ウイルスの感染経路は、くしゃみ・咳を介した飛沫感染、手指を介した接触感染です。感染してから発症するまでの潜伏期間は35日、ウイルス排泄期間は7日以上と長いです。このため、RSウイルスはインフルエンザと同じレベルで感染が広がりやすいのが特徴です。飛沫感染により手についたウイルスは、約30分の感染力を持つ力があるとされています。

 

 

2.    RSウイルス感染の症状・治療・経過は?

 

RSウイルスは、例年秋から冬に流行期(10月頃から2月頃)がありましたが、近年では夏においても診断されるケースが増加しています。典型的な年齢は2歳以下の乳幼児、また基礎疾患をお持ちの方は2歳以上でも細気管支炎・肺炎を示唆する「下気道症状」に発展することがあります。

 

一方、免疫・抵抗力がある年長の子ども・成人では細気管支炎・肺炎に発展することは稀です。

 

一般的な症状経過ですが、感染後4〜5日の潜伏期の後、発熱、水様の鼻汁(透明な鼻水)、痰がらみの咳、発熱などの「上気道症状」が現れます。発熱は初感染(2歳以下)の場合、4-5日持続することもあります。また、2割程度では「下気道症状」へ発展します。そのため、咳が止まらずに夜が眠れない・呼気性の喘鳴(ぜんめい:ぜいぜいすること)、呼吸障害が現れてきます。

 

◎症状の重症化を簡単にまとめると下記の様になります。

・水のような鼻汁・鼻づまり

・ひどい咳、むせるような咳、夜が眠れない

・呼気性喘鳴(「ぜいぜい」の音が聞こえてくる)

  呼吸数が多くなる(多呼吸)、呼吸困難(肋骨の下がへこむ、肩で呼吸する

  無呼吸(呼吸をさぼる)

 

  RSウイルス感染症において、細気管支炎・肺炎などに注意する症状は、「ぜーぜー:喘鳴」よりむしろ「呼吸状態」です。お腹をペコペコさせ肩を上げて呼吸する、普段より早い呼吸する、顔色(とくに唇のまわりが紫色となる)に特に注意してください。

 

何度か感染して免疫が付きますので、感染しても熱が長引くこともなく、咳症状もだんだん軽くすみます。感染するたびに抵抗力が付いて強くなりますが、初感染はホームケアが大変になると思います。

 

RSウイルスに感染した場合、残念ながら特効薬は現時点ではありません。ミルクの飲みが悪い場合は輸液をしたりします。咳に対しては、気管支を拡げる薬、痰を切りやすくする薬、炎症を抑えるステロイドが使われたりします。

 

ロイコトリエン受容体拮抗剤(オノン、キプレス、シングレア)は気管支喘息の予防薬ですが、咳や喘鳴の重症予防に使用さことがあります。


 シナジス(パリビズマブ)は、早く生まれた低出生体重児・心臓に病気を持っている子どもに対して、予防目的で使用される注射薬です。条件を満たせば保険診療であり無料ですが、非常に高価な薬です(1回約8万円)。RSウイルス感染の流行期の前に、1ヶ月毎に6 回程度行われます。

 

3.    医師にどのように説明したらよいのか?
 

簡単には、前項目で挙げた症状を説明することが重要かと思います。特に、日常生活においての判断目安としては、発熱の有無、哺乳量(ミルクの飲み)・呼吸状態(せき込みが長い、ぜいぜいする、全身を使って呼吸する)、睡眠が可能か(昼・夜に眠れているか)などが重要です。

 

 

4.対処法…家庭での看病、他者への感染予防方法など

 

 自宅でのホームケアですが、処方された内服薬を飲みながら、鼻水を定期的に吸う、こまめに水分をとる(痰の切れを良くする)が重要です。眠れない場合には、枕を高くするなどの工夫が必要となります。

 

1項で簡単に説明をさせていただきましたが、飛沫感染・接触感染が主であるため、家族全員で手洗いをしましょう。そして、親子ともに、かぜをひいた人との接触を避けます。換気を多めにするなどの方法も考えられます。特に2歳以下の乳幼児にいかに感染させないようにするかが重要なポイントになります。


RSウイルス流行期(10月頃から2月頃)には、次のような行動・場所が感染のリスクが増えます。

 

 

タバコの煙は、子供の気道を刺激し抵抗力を低下させるため、咳症状が悪化し、喘鳴を起こしてしまいます。また、感染後の症状悪化だけでなく、健康時にも気道の状態を悪くしてしまうため、感染するリスクも高くなると考えられます。

 感染しやすい乳幼児の寝室を他の風邪を引いている家族と別にした方がいいでしょう。というのも、大きな子ども、大人は風邪程度ですむため、RSウイルスが感染していても自覚症状が出ないことが多いためです。

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