「子どもと薬」                

はらこどもクリニック院長  原 朋邦先生

 

 好い医者は下痢に下痢止め、咳に咳止め使わない。これは小児科医になりたてのときに先輩に教えられた諺です。
下痢には色々の原因がありますが、下痢を止める薬とは腸の蠕動をとめる働きのある薬です。
下痢の原因は色々有りますが、ウイルスや細菌感染の場合には病原体を速やかに捨てる働きを持っています。
それを止めれば病原体がより長く体内に留まることになります。

また、大腸で腐敗や発酵が起こっているのですが、それがより活発になりガスが多くなりおなかが張って困ることにもなります。

 

咳は気道に炎症が起こり、病的な痰や異物を体外に捨てる反応でもあります。咳止めとは咳の反射を抑制する薬です。
痰が留まれば、やはり病原体が中で増殖し肺炎の誘因になったりします。

 

下痢や咳は病気であることの兆しであり、この症状が強ければ、辛いものではありますが、闇雲に症状を止めようとすることが治療ではないのです。

 

私は、小児科医になって45年になりますが、次硝酸ビスマスやロペラマイドという下痢止めを小児の患者さんに使ったことはありませんし、
燐酸コデインという咳止めは百日咳の患者さんや成人の患者さんに稀に使う以外には処方したことはありません。
鼻水、軽い咳、軽い発熱は風邪の主な症状ですが、早く薬を飲んだ方が早く治ると考えられている方は少なくないのではないでしょうか?

 

アメリカの小児科学会が2009年の10月に教科書を出版しました。
その本によれば、普通感冒には有効な薬はないと書かれています。数年前に、アメリカのFDAは2歳以下の子どもには、
市販の風邪薬を飲ませないように勧告していますが、アメリカ小児科学会もそれを支持すると書かれています。
乳児急死症候群の頻度が高くなると警告をだしているのです。
ウイルスによる細気管支炎(ウイルス性肺炎と同義語)は乳児ではしばしば入院の原因にもなりますし、ときとして生命を脅かす病気ですが、
これにも、有効性が証明された薬はなく3%の食塩水の吸入が僅かに有効だと書かれています。

 

私は、自分の仕事は薬を処方することは第一義的ではなく、どんな病気かを診断すること、悪化していない、
合併症がないことを確認することが大事であり、無効である薬物を処方することはあっても危険性の高いものは処方すべきではないと考えていますが、
患者さんの希望とは合わないことが多いようです。

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